読了:アイの物語
「やっぱり君も、ほかのヒトと同じように、真実に耳を傾けないのね」
アイの物語を読了。
この本はFM-TOKYOの「Suntory Saturday Waiting Bar Avanti(サントリー サタデー ウェイティングバー アバンティ)」でベストSF 2006国内篇 第2位 と紹介されて気になっていたので、試しに買ってみたもの。山本弘さんというと「ラプラスの魔」や「パラケルススの魔剣」、サイバーナイトシリーズ、ソードワールドシリーズ、夜魔夜行シリーズなど思い入れのある作品を書いていらっしゃる。内容を良く練ってある良作を生み出しているかたです。
この作品は、いくつかの雑誌に載った短編をまとめたものであるのだが、導入と間幕に話を追加することにより、最後の話を際立たせるように構成されている。
この話の中心は、人類が衰退し知能をもったマシンが闊歩する世界。コロニーを渡り歩いて物語を集め聴かせる語り部である少年が、あるときアイビスと名乗るロボットに話を聞いてくれとお願いされる。ロボットは人類の敵であると教えられている少年は、必死に抵抗するが攻撃がかすりもせず、それどころかミスで怪我をしてしまう。保護された少年は手厚く看護され、そこでアイビスは人が作ったフィクションである物語を語って聞かせる。それらの話は、どれもがSFでネットワーク越しでの人とのコミュニケーションや、人工知能、ロボットが出てくる話であった。
それらの話に考えされられた少年はアイビスが本当に語りたかった話に興味を持ち、最後にはその話を語ってくれと願い、アイビスはアイビス自身が生まれた話と人類の衰退の真実の話を語った。
んで、この「アイの物語」は、面白い!
もともと、オイラは人工知能に興味があって、現実に作り出せていないことに苛立ちを覚えているのだけど、この苛立ちはどこから来るのかこの本を読んでわかった。
このまま技術的ブレイクスルーが来ない限り人類は、地球のリソースを食いつぶすだけで自滅する。これを打破するには地球上ではなく未知なるフロンティアである宇宙への進出が必要なのだが、地球の重力井戸を抜けるのでさえ国家規模の予算と技術が必要であり、ほとんど不可能である。予算的な問題もでかいが、技術ひいては技術を生み出す知恵に(有機生命体であるが故、機能拡張が不可能に近い人間には)限界がある。肉体的な脆弱さもそうだし。この限界が絶望→苛立ちなのだ。
マシン知性体ができれば、人のように記憶の制限や肉体的脆弱性も克服できるだろうし、一気にブレイクスルーできると思うのだが、難しいよな・・・。
アイの物語
著者:山本 弘 |
あと、その物語が真実であるかフィクションであるかで、物語の重みは変わらないということもこの本は訴えている。たとえば2チャンネルで、感動的な話をコピペだと言って水を差す者がいるけれど、フィクションだから意味がないのかというとそんなわけがない。その話がおもしろいと思い、感動したと思い、憤慨したと思い、これらの思いはフィクションだからなかったことになるのかというとそうではない。その話の人物に感情移入して感じたことは真実なのだから。
簡単に言うと愚昧に目を閉じても何にもならない。なにがしかの意味を自分なりに得ることに意味があるのだということ。
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